何にでも使える200万円を貯金しよう|宮野 真弓さん

2019.8.6

宮野真弓

不妊治療では、「どのくらいの費用がかかるのか」といった費用面の不安も大きいのではないでしょうか。そこで、妊活・不妊治療の悩みをファイナンシャル・プランナー(FP)の立場からサポートする「FPオフィスみのりあ」代表の宮野真弓さんに、妊活・不妊治療にかかる「お金の話」について伺いました。

不妊治療の費用は様々な要因で変動が大きい

―不妊治療にかかる費用の目安を教えていただけますか。

宮野:まず、不妊治療にはその内容によって健康保険が適用されるものと適用されないものがあり、適用されない自由診療については金額も医療機関によって異なります。また、不妊の要因によって治療法が変わるため、費用について概算でお話しするのは難しいところです。あくまで1つの参考情報として、私自身が複数の医療機関の情報からまとめた治療費の目安をご紹介します。

【表: 不妊治療にかかる費用の目安】

一般不妊治療
各種検査(血液検査、子宮卵管造影検査、精液検査など)  数百円~2万円程度(多くの検査は保険適用)
 タイミング法(保険適用)  1周期あたり2千円~2万円程度
 人工授精(自由診療)  1万円~3万円程度
高度生殖医療
 体外受精(自由診療)  20万円~60万円程度
 顕微受精(自由診療)  25万円~70万円程度
 凍結胚移植(自由診療)  10万円~25万円程度

(宮野真弓氏提供資料)

ホルモンの値を測る血液検査、卵管が詰まっていないかを調べる子宮卵管造影検査、精子の数や運動量を調べる精液検査などの各種検査の多くは健康保険が適用され、自己負担額は1件の検査に付き数百円〜2万円程度になります。また、タイミング法は1周期当たり2千円〜2万円程度、人工授精は自由診療のため医療機関によって1万円〜3万円程度が目安です(表)。

そこから体外授精、顕微授精、凍結胚移植といった高度生殖医療に進んだ場合、これらも自由診療で、体外受精や顕微授精は30万〜50万円が相場ではないでしょうか。実際には、ご自身で通院を考えている医療機関をいくつかリストアップして、費用について問い合わせてみるとよいでしょう。

別の参考情報として、不妊治療経験者293人を対象に、株式会社ジネコが昨年(2018年)実施した調査によると、これまで不妊治療にかかった費用は200万〜300万円未満と回答した人がおよそ20%と最も多く、次いで300万〜500万円未満が約15%、100万〜150万円未満が約14%でした。平均治療期間は約38.70カ月でした(但し、治療休止期間を除く)。近年、不妊治療は長期化する傾向があるため、不妊治療にかかる費用も年々上昇しています。

ちなみに、治療費以外にもサプリメント、整体や鍼灸院、ヨガ、温活グッズや食事など、ご自身の考えなどで取り組むことがあれば、それらの費用が別途、かかることも念頭に置いておくとよいでしょう。

国や自治体の助成制度の活用を

―不妊治療を考えているカップルをサポートしてくれる助成制度などはあるのでしょうか。

宮野:国のサポートとしては「特定不妊治療費助成制度」があります。特定不妊治療(体外受精と顕微授精)にかかった費用に対して、治療1回につき15万円、初回の治療に限り30万円まで助成する制度です。また、採卵を伴わない凍結胚移植については1回当たりの助成額は7.5万円までです。ただし、助成を受けられる通算回数は、初めて助成を受けたときの治療の初日の妻の年齢が40歳未満の人は6回まで、40歳以上の人は43歳になるまでに3回までと決められています。

一方、男性側に不妊の要因があって精子を採取する手術を受けた場合は、別枠で15万円(2019年度から初回30万円へ引き上げ)が助成されます。従って、初回は男性不妊治療を併用した場合、45万円(2019年度からは最大60万円)が戻ってきます。

ただし、この助成制度には所得制限があります。夫婦合算で730万円以上の所得があると助成の対象外になるので、注意が必要です(東京都の場合、2019年4月1日以降に開始した1回当たりの治療では、所得制限額が905万円に緩和)。所得は年収の70%くらいなので、年収の合算が1千万円を超えると、所得制限に引っかかる可能性があります。所得を年収と誤解して、「共働きでそれぞれの年収が400万円だから」と、最初から申請を諦めてしまう人も多いので、所得制限にかかるかどうかが分からなければ、申請だけでもしておいた方がよいでしょう。

また自治体によっては助成金を増額していたり、所得制限や回数制限を設けていなかったりとさまざまな独自制度もあります。例えば東京都では港区の場合、所得制限や年齢制限がなく(2021年度からは妻の年齢が43歳以上で開始した場合は対象外。2019年6月現在)。助成制度は自分から申請しないと受けられませんから、ご自身の住む自治体にどのような助成制度があるかを、ぜひ確認しておきましょう。

この他、一般不妊治療や不妊治療の検査費用を手厚くサポートしている自治体もあります。不妊治療で成果を上げるために重要なのは、最初の一歩をどれだけ若いうちに踏み出せるか否かです。妊娠や出産はまだまだ先のことだと思っているカップルも、こうした助成制度を利用して、検査だけでも受けてみることをお勧めします。

―国や自治体といった公的なもの以外にもサポートはあるのでしょうか。

宮野: そのような民間の保険もあるのですが、不妊治療を考えてから保険に加入するのでは遅く、得策とはいえません。不妊治療のサポートは主契約ではなく、あくまでもオプションとしてつけられているものなので、契約後2年間は不妊治療のための保障は適用されないからです。契約後3年目以降は不妊治療費の保障を受けられますが、それまでの期間に支払う保険料を考慮すると、その分を貯蓄するか不妊治療費に充てた方がいいと思います。

妊活の費用は医療費を最優先に

―医療機関での不妊治療以外に費用がかかる可能性があるものはありますか。

宮野:通院のための交通費や治療の中で処方されるお薬代などの他、「もしかしたら効果があるかも?」と、ついついサプリメントや漢方薬、鍼灸など、妊活によさそうなものが気になってしまいがちです。

最近ではSNSなどで妊活している人同士がつながることも多いと思います。妊活仲間が先に妊娠して、「これ使ってよかったよ」と聞くと、自分も試してみたいと思ってしまうものです。とはいえ、全てを試すわけにもいきませんし、結局のところ、どれを試したから妊娠したかは、実証できません。

ですから、妊活の費用をどう使うかを考えると、やはり医療機関での治療費に充てることが最優先といえます。葉酸や鉄、マグネシウムといった妊娠に必要とされるサプリメントを取り扱っている医療機関もありますし、栄養面での相談にも応じてくれます。最近では、漢方薬や鍼灸の専門施設と提携している医療機関もあるので、もし気になるようでしたら相談して、信頼のおけるところで試してみるのがよいと思います。

私自身が不妊治療を経験しましたから、妊娠によさそうなことは全て試してみたいという気持ちもすごく分かります。「やっておけばよかった」と後悔したくない気持ちもあると思います。でも、不妊治療の目標は妊娠・出産ですが、それで人生の目標がすべて終わるわけではありません。将来を考えて、かけられる予算の範囲内に絞っていかないと、家計の負担が大きくなってしまうので、要注意です。

―不妊治療に対する費用面の不安に対して、どのような準備が必要でしょうか。

宮野:これから結婚を考えていたり、あるいは結婚したばかりのカップルで、近い将来の不安材料の1つに不妊症があるようなら、「不測の事態に備えるために」というベーシックな家計貯蓄の考え方として、少なくとも半年分、余裕があれば1年分の生活費を貯蓄することを、夫婦の第1目標にしてほしいと思います。次に、「何に使ってもいいお金200万円」を追加で貯蓄しましょう。不妊症だったらその貯蓄を不妊治療に充てられますよね。他にも住宅の頭金やレジャー費用など、理由や目的、用途に縛られず何にでも使えるのが貯蓄のよいところです。

貯蓄は少ないけれど不妊治療を始めたい場合は、比較的若い人であれば「貯蓄をしながら治療を始めてみましょう」と、私はお勧めしています。どんな治療が必要なのか、どのくらいの費用が必要になるかは、検査してみないと分かりませんが、少しでも早く治療を始めることが妊娠につながりやすいからです。高度生殖医療に進む際には、助成制度もありますし、ボーナスや貯蓄を使いながらどれくらいの時期に何回くらいトライできるかなど、一緒に家計の予算配分や治療の進め方を考えています。孫のためにと親御さんが貯金を残していることもありますから、可能であれば親御さんに治療費を援助してもらえるか相談してみることをお伝えする場合もあります。

実は男性の方が高い妊活費用への関心

―カップルで足並みを揃えて取り組む際に、重要なポイントはありますか。

宮野:不妊治療の最初の一歩である検査は、必ずカップルで受けてください。これは夫婦間の気持ちの問題だけでなく、不妊の原因によって治療法が変わってくるので、実は治療を進める上でもとても重要なことなのです。

例えば、女性だけが不妊検査を受けて異常は見つからず、タイミング法でなかなか妊娠しないと思っていたら、実は男性不妊だった、というような場合があります。検査を一緒に受けていれば、そのような事態は避けられ、時間や費用をあまりかけずに最適な治療に進むことができます。少しでも早いタイミングで自分たちの状況に合った治療を受ける方が妊娠の可能性は高まりますし、結果として家計の負担も減らすことができます。

妊活は、男性側にはなかなか理解しづらい面があるのかもしれませんが、私は「妊活にかかるお金の話」は男性の関心度が高いという手応えを感じています。というのも、いわゆる妊活セミナーの参加者はほとんどが女性ですが、「妊活×お金」となると、男性の出席率が高いからです。「自分1人でも参加していいですか?」と、男性お一人で参加する人もいます。

具体的な数字を示した方が、男性はイメージしやすいですし、大きな額のお金の管理は、実は男性の方が向いていると思います。「うちの自治体ではこんな助成制度がありました!」と報告してくれたり、家計の長期的なバランスシートを自分で作って試算してくれる男性もいらっしゃいます。

妊活は女性の体調やストレスマネジメントも大きく影響するので、私は男性に「あなたのサポート次第で妊活費用が変わります」と伝えています(笑)。

―ご自身の不妊治療経験を経て、不妊治療の費用の話に応じる宮野さんが目指すものについて教えてください。

宮野:私は「妊活・妊娠・出産・育児をハンデにしない社会を目指す」を事業目標に掲げています。今の日本社会は、女性が妊活や妊娠、育児、介護で仕事を離れると、全てがキャリアブランクにされてしまう傾向があります。たとえ妊活のために仕事を離れたとしても、1日の全てを妊活に費やしているわけではないはずです。育児や家事、介護…全てマルチタスクが求められるものなので、就業していないだけでブランクにはならないはずです。就業しているときにはできなかったこと、例えば地域活動やボランティア活動、資格を取るなど、可能な範囲で新たな自分を発見していくというような、多様な生き方が認められて、いろいろな形で誰もが活躍できる場が社会になればいいと思います。


<宮野 真弓さん>

ファイナンシャル・プランナー。“妊活・不妊治療のお金専門家”である「FPオフィスみのりあ」代表。証券会社、銀行、独立系FP会社での勤務を経て独立。不妊治療(体外受精)により3人の男児を出産。自身の経験を元に、妊活中や育児中の人に向けた講演や執筆、個別相談を中心に活動中。