受精卵にグレードがあるってホント?

2020.2.26

お腹

体外受精や顕微授精などの高度な生殖補助医療(ART)では、卵子を採取し受精させて培養した上で、発育した受精卵(胚)を子宮に移植します。移植後にうまく着床するかどうかは胚の質に左右されると考えられているため、ARTでは多くの場合、複数の卵子を採取して受精・発育させ、その中から最も質の高い胚を選んで移植します。その際、多くの医療機関で胚の発育や質の目安としているのが「グレード」です。ここでは、胚のグレードについて解説します。

受精卵が発育するプロセス

胚の質の目安となるグレードですが、胚の発育段階によって評価法が異なります。そこで、まずは受精と胚の発育プロセスについて簡単に説明します。

体外受精では、採取した卵子の入った培養皿に、活動性の高い精子を選別し調整した精液を加えて受精させます(媒精)。一方、顕微授精では形や運動性が良好な精子を選び、細い針で吸引した上で採取した卵子に直接注入します。

媒精あるいは顕微授精の後は、13〜18時間後までに顕微鏡で観察し、受精したかどうかの確認を行います。卵子の核と精子の核が2つ並んだ胚がみられる場合は「正常受精」、核が3つ以上ある場合は「異常受精」と判断されます。

正常と判断された受精卵は、インキュベーター(培養器)で培養して発育させます。受精卵は細胞分裂を繰り返し、多くの場合、採卵日から2日目には4つの細胞に、3日目には8つの細胞に分かれます。そして、4日目には細胞同士が密着して1つの大きな塊になろうとする現象(コンパクション)が起き、「桑実胚」になります。さらに発育が進むと5日目には「胚盤胞」になり、将来胎児になる部分と胎盤になる部分が観察できるようになります。

胚移植は「初期胚」と「胚盤胞」のいずれかの段階で

従来のARTでは、採卵から2~3日後に細胞の数が4~8個となった「初期胚」の段階で子宮に戻す方法がとられてきました。しかし、近年の培養技術の進歩によって採卵後5~6日間培養し、「胚盤胞」まで発育させてから移植することも可能になりました。

前述の通り、「胚盤胞」は胎児になる部分と胎盤になる部分が観察できる段階で着床の準備が整った状態です。そのため、初期胚の移植と比べて胚盤胞を移植した方が着床率は高いことがわかっています。ただ、培養した全ての胚が胚盤胞まで発育するわけではないため、卵巣の状態などを考慮しながらいずれかを選択することが多いようです。

初期胚の質は「Veeck 分類」の5段階のグレードで評価

「初期胚」と「胚盤胞」のいずれの段階も、移植する場合は胚の質が評価され、質が高いと判断された胚が移植に選ばれます。

初期胚の質の評価の目安の一つとして広く用いられているのは、「Veeck(ビーク)分類」です【表1】。これは、細胞(割球)の大きさが均等かどうか、また「フラグメンテーション」と呼ばれる細胞の破片が少ないかどうかなどを5段階のグレードで評価する分類法です。この分類法では、グレード1が最も質が高く、グレード5が最も質が低いと判断されます。移植の対象とするグレードについては医療機関によって異なりますが、グレード3以上としている場合が多いようです。なお、この分類法をさらに細分化した独自の分類法を使用している医療機関もあります。

【表1:Veeck分類による胚の評価】

グレード1 細胞の大きさが均等で、フラグメンテーションが認められない胚
グレード2 細胞の大きさが均等で、わずかにフラグメンテーションが認められる胚
グレード3 細胞の大きさが不均等で、少量のフラグメンテーションが認められる胚
グレード4 細胞の大きさが不均等で、かなりの量のフラグメンテーションが認められる胚
グレード5 細胞がほとんど認められず、フラグメーションで埋め尽くされている胚

胚盤胞の質は「Gardner分類」の6つのグレードで評価

胚を胚盤胞になるまで発育させて移植する場合は、「Gardner(ガードナー)分類」を使用して胚の質を評価している医療機関が多いのが現状です【表2】。胚盤胞は発育に伴い胞胚腔と呼ばれる部分が広がりますが、その程度と孵化(ハッチング)の状態に基づき、初期段階のグレード1から着床寸前の状態になるグレード6までの6段階で評価します。

【表2:Gardner分類による胚の評価】

グレード1 初期胚盤胞(胞胚腔は全体の半分以下)
グレード2 胚盤胞(胞胚腔は全体の半分以上)
グレード3 完全胚盤胞(胞胚腔が全体に広がった状態)
グレード4 拡張胚盤胞(さらに胞胚腔が広がり、透明帯が薄くなる)
グレード5 孵化中胚盤胞(孵化しつつある状態。栄養外胚葉が透明帯の外に脱出し始める段階)
グレード6 孵化後胚盤胞(胚が完全に透明帯から脱出し、孵化が完了した段階)

また、グレード3以上の胚盤胞については、胎児になる部分である内細胞塊(ICM)と、胎盤になる部分である栄養外胚葉(TE)の状態をA、B、Cの3段階で評価します。いずれも、細胞が多くて互いに密に接している場合はA、細胞が少なく互いの接着が粗い場合はB、細胞の数が非常に少ない場合はCと判定されます。例えば、グレード4でICMはB、TEはAの状態と判定された場合は「4BA」といったように、評価結果を組み合わせて表します。

グレードの高さだけで胚の質が決まるわけではない

これらの分類法は現在多くの医療機関で使用されていますが、確実に胚の質を評価する方法ではありません。したがって、最もグレードが高い胚を移植したからといって100%の確率で妊娠するわけではありません。

また、これらの分類法は、細胞の数が多いか少ないかを含めて、あくまでも胚の「見た目」で観察者が主観的にグレード付けするものです。また、胚の染色体の異常などを見つけることもできません。したがって、胚のグレードは質の目安にはなりますがその評価には限界があることも覚えておく必要があるでしょう。

(文/メディカルトリビューン編集部)