ピルを飲むと不妊症になるの?

2019.8.15

ピル

ピルは、女性が主体的に使用できる避妊薬です。それだけでなく、月経痛やPMS(月経前症候群)などを改善させる効果もあることから、女性のクオリティ・オブ・ライフ向上に役立つ薬として、世界で1億人もの女性に使用されています。しかし、日本ではピルに関する理解がまだ十分ではなく、「ピルを飲むと不妊症になる」と誤解している人も多いようです。結論から言えば、ピルを継続して飲んでも不妊症になることはありません。ここでは、ピルを安心して使用するための基礎知識を解説します。

現在の主流は低用量ピル

ピルは女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が含まれた経口避妊薬で、1960年にアメリカで初めて承認されました。

当初はエストロゲン量が多い高用量ピルが用いられていましたが、副作用が多く見られたため、1970年代からは低用量ピルが使われるようになりました。エストロゲン量を避妊効果が得られる最低限度まで低用量化したことで、安全性が飛躍的に改善されたのです。現在では通常、ピルと言えば低用量ピルのことを指し、主にホルモン量が服用する時期によらず全ての錠剤で一定な「一相性」と、3段階に変化する「三相性」の2つのタイプに分かれます。

ピルによる避妊のメカニズム

日本では、1999年から避妊目的として低用量ピルを使用できるようになりました。ピルによる避妊の仕組みは、以下の通りです。

ピルを飲むと、エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が高まります。本来、この2つのホルモンが高まるのは妊娠中であるため、脳は「妊娠した」と錯覚して下垂体からのホルモン分泌を停止します。すると卵巣で卵胞が成熟せず、排卵も起こらないため、妊娠を防ぐことができるというわけです。

また、排卵が止まることにより、子宮内膜の増殖が抑制されて受精卵が着床しにくい状態になるほか、頸管粘液が変化して精子の侵入が防止されるという複合的な作用も起こり、避妊効果が高まります。ピルを適切に使用すれば、妊娠する確率はわずか0.3%です。

服用を止めれば排卵は再開する

気になるピルと不妊の関係ですが、ピルは排卵を抑制するだけの薬であり、服用しても卵巣の機能を損なうことはありません。大抵の人は服用を中止すると3〜4カ月で排卵が起こり、妊娠が可能となります。

また、妊娠前にピルを服用していたからといって、胎児の先天異常が増えるということもありません。医学誌British Medical Journal2016年1月号に掲載された研究では、妊娠前3カ月〜妊娠初期に低用量ピルを服用していても、胎児に先天異常が生じるリスクは増大しなかったと報告されています。

血栓症には注意が必要

もちろん、ピルの副作用はゼロというわけでありません。吐き気、倦怠感、頭痛、めまい、乳房の張り、不正出血などの症状が現れることがあります。ただし、これらの症状の多くは一時的なもので、飲み始めて2〜3カ月が経過すれば消失します。もしも症状が続く場合は他のピルに変更することもできるので、主治医に相談してみましょう。

また、重篤な副作用として血栓症が挙げられますが、健康で喫煙しない人であれば、ピルの服用により血栓症を引き起こすリスクは、ピルを服用していない人とほとんど変わりません。ただし、喫煙者の場合はリスクが高まるため、1日15本以上喫煙する人はピルを使用できません。

ピルには不妊を予防する副効用も

ピルは避妊目的で開発された薬ですが、それ以外にも有効な作用(副効用)として、月経周期のコントロール、過多月経や月経痛、PMSの改善、子宮内膜症の予防や治療、卵巣がんや子宮体がんの予防などが期待できます。

たとえば、卵巣がんの予防に関しては、ピルの服用によって排卵回数が抑制されて卵巣の負担が軽減することが良い影響を及ぼすと考えられており、服用年数が長ければ長いほど卵巣がんの発生は減少するという報告もあります。

また、不妊という観点から注目したいのは、子宮内膜症に対する効果です。子宮内膜症は、本来であれば子宮内にのみ存在する子宮内膜が骨盤の内外で増殖してしまう病気で、月経を繰り返すたびに悪化し、不妊症の原因となります。これに対し、ピルは子宮内膜の増殖を抑える作用があるため、子宮内膜症の予防や治療にも有効と考えられています。

このように、ピルは飲んでも不妊症になることはなく、むしろ不妊を防ぐ効果が期待されます。ピルを入手するには医師の処方が必要ですので、ピルの服用を検討されている方は専門の医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

(文/メディカルトリビューン編集部)