女性の年齢が妊娠に影響するのはなぜ?

2019.4.1
下降グラフ

女性の年齢と妊娠は密接な関係があると言われていますが、その関係の謎を解き明かすカギの1つが「卵子」です。最近は「卵子の老化」という言葉を耳にすることも多いと思いますが、卵子が老化するとはどういうことなのでしょうか。ここでは卵子の成り立ちと卵子の老化が妊娠に与える影響について解説します。

卵子は年齢とともに減少

卵子のゆりかごである「卵胞」は胎児のときに作られ、その後に新しく作られることはありません。ピーク時にはおよそ700万個に達しますが、生まれてくるときは200万個程度、思春期には約30万個にまで減少しており、初潮から閉経までの期間は1カ月におよそ1,000個の卵胞が減り続けていきます。1度の月経周期で排卵される卵子は1つだけですが、その裏ではたくさんの卵子が失われているのです。女性が一生の間に排卵する卵子はわずか400〜500個といわれています。

卵子の数を調べるにはAMH検査

卵巣に残されている卵子の数を正確に知ることは難しいですが、血液検査によっておおよその数を推測することが可能です。卵胞から分泌される「抗ミューラー管ホルモン(AMH)」というホルモンは卵子の数を反映するため、血中のAMHの量が多ければ卵子の数が多く、AMHの量が少なければ卵子の数が少ないということになります。

AMHは年齢とともに減少しますが、個人差もあります。アメリカで行われた研究のグラフを見てみると、年齢別のAMHの平均値(丸い点)は高齢になるほど低くなっていますが、同一年齢のばらつき(垂直の細い線)も大きく、20代なのにAMHが低いという方がいる一方、40代でもAMHが高い方がいることが分かります。不妊治療を始めるかどうかを判断する目安もなりますので、妊娠を希望する場合はAMHの検査を受けて、ご自身の卵巣の状態を調べてみてはいかがでしょうか。

AMHと年齢

ただし、AMHはあくまで「卵子の数」を反映するものであり、「AMHが高いから妊娠しやすい」というわけではありません。また、「卵子の質」を評価するものではないことにも注意が必要です。では、卵子の質とはいったいなんでしょうか。

老化した卵子では膜が硬くなったり染色体に異常を来す恐れが

先ほど説明したように、卵胞は胎児のときに作られて、その後に新しく作られることはありません。つまり、「卵胞の年齢」は「女性の年齢」とほぼ同じということになります。そして、人間が年を取るとさまざまな機能が衰えてしまうのと同じように、卵胞も年を取ると質が低下してしまいます。老化した卵胞から成熟した卵子ではどのような質の低下が見られるのでしょうか。

卵子老化の影響

卵子が老化すると「透明帯(卵子を包む膜)」が硬くなったり厚くなるため、精子が卵子の中に入りづらくなり、受精成立の可能性が低下してしまいます。また、老化した卵子では細胞分裂(減数分裂)のエラーにより染色体に異常を来す可能性が高くなるとされており、染色体の異常は胚の生育不良や着床不全、流産の原因となります。さらに、無事に受精できたとしても、老化により透明帯が硬く厚くなった卵子は受精卵(胚)が透明帯を破って脱ぎ捨てる「孵化(ハッチング)」に時間がかかるため、子宮内膜にたどり着くタイミングが遅れて着床できなくなる可能性が高まるのです。

なお、不妊治療の際には胚を凍結保存することがありますが、凍結によっても透明帯は硬くなり孵化しにくくなるといわれています。そのような場合、レーザーなどにより透明帯に孔を開けて孵化しやすくする「透明帯開口法(アシステッドハッチング:AHA)」という技術が用いられることがあります。

一方で精子は…?

精子は卵子とは異なり、思春期を過ぎると毎日新しく作られます。精子は精原細胞から70日間ほどかけて分化し、1日におよそ1億個も作られると言われています。しかし、男性の加齢とともに徐々に精巣は委縮して男性ホルモンも減るため、精子の質も低下すると考えられています。

思い込みや自己判断をせず、妊娠や不妊治療の正しい知識を

加齢により卵子の数と質が低下し、妊娠の可能性が低くなることは避けられない事実です。昔と比べ、女性を取り巻く社会環境や生活環境は大きく変化しましたが、生物としての「妊娠適齢期」に変わりはありません。「生理がある間は妊娠できる」と考えている方も少なくないかもしれませんが、卵子の数や質の低下により35歳ごろから妊娠率は低下し、40歳を超えると妊娠喪失や自然流産の可能性が高くなります。個人差はありますが、一般的には40~43歳ごろに自然妊娠が可能な年齢の限界を迎えます。

最近は著名人の高齢出産が話題になることが増えています。新しい生命の誕生は喜ばしいニュースですが、「○○さんが出産できたなら私もまだ大丈夫」「医療が進歩したからすぐに妊娠できる」などと妊娠や出産を安易に考えがちになる恐れがあります。しかし、高齢出産をされた方のお話を詳しくうかがってみると、「長年の不妊治療がようやく実を結んだ」というケースも多いようです。表面的な情報に踊らされたり、思い込みや自己判断をすることなく、妊娠や不妊治療の正しい知識を身につけることが重要です。

(文/メディカルトリビューン編集部)