体外受精の採卵手術と使用される麻酔について

2019.9.5

麻酔

体外受精では、採卵時の痛みを無くしたり軽減するために、麻酔をすることがあります。麻酔薬にはいろいろな種類があり、中には痛みを伴うものもあります。ここでは、体外受精での採卵手術がどのように行われ、どのような麻酔薬が使われるのかなどについて紹介します。

採卵手術はどのように行うの?

採卵手術では、膣から経腟超音波診断装置を入れ、卵巣と血管の位置などを確認しながら、膣から入れた採卵針を卵巣に刺し、卵胞液ごと卵子を吸引します。

採卵針は注射針ほどの太さで、標準的なものでは直径が約1.5mmですが、もっと太いものから細いものまでさまざまな種類があります。細い針を使うと針を刺す際の痛みは少なくなりますが、採取できる卵子の数が限られたり、吸引する卵子が変形したり傷ついてしまう可能性もあります。

できるだけ多くの卵子を適切に採取するには、ある程度の太さの針を使ったり、何度も卵巣に採卵針を刺す必要があるため、相応の痛みを伴うことになります。また、卵巣の位置などによっては強い痛みを感じるケースもあります。予想される痛みが大きい場合は、麻酔をかけた状態で採卵します。

採取する卵子の数が少ないなど、強い痛みが起きる可能性が低い場合には、麻酔を使わずに採卵したり、麻酔薬の代わりに鎮痛剤を使うこともあります。

麻酔にはどんな種類があるの?

麻酔には、全身麻酔と局所麻酔があります。

全身麻酔による採卵は、前夜から絶食し、採卵当日に麻酔薬を静脈から投与して完全に眠った状態で行います。薬の効き目が強いので、痛みはほとんど感じませんが、採卵手術後目覚めるまでに時間がかかります。

局所麻酔による採卵は、膣周辺に局部的な麻酔をかけ、感覚を麻痺させて行います。意識があるため手術の様子が分かり、短時間で麻酔が切れるため、全身麻酔よりも安全性が高いと言えます。ただし、人によっては採卵の痛みを感じることがあります。

また、麻酔薬の代わりに膣内座薬や錠剤の鎮痛剤を使用する場合もあります。その場合、術後はすぐに活動できますが、人によっては採卵の痛みを強く感じる場合があります。

実際にはどの麻酔が使われているの?

麻酔を使うかどうか、どの麻酔を使うかについては、医療施設によって方針がさまざまですが、痛みへの対策を行う施設の方が多いようです。第12回日本不妊カウンセリング学会での英ウィメンズクリニックによる発表では、不妊治療を行う医療施設(153施設)を対象とした調査で、採卵時に麻酔や鎮痛剤を使うかどうかを質問したところ(複数回答可)、麻酔や鎮痛剤を使用する施設は142施設であり、そのうち約半数で全身麻酔を行なっていました。

また、採卵手術を受けた女性325名を対象とした調査で、麻酔の使用について誰が決定したのかを質問したところ、医師が決定したケースが66.5%、採卵を受ける当人が決めたケースは29.5%でした。この調査によれば、9割近くの方が麻酔に対して満足していると回答し、全身麻酔、鎮痛剤、局所麻酔の順に満足度が高いという結果になりました。

採卵手術はどのくらい時間がかかる?

採卵手術の所要時間は施設や症例によりさまざまですが、およそ5~20分程度です。その後、1~2時間程度、ベッドで安静にしてから帰宅します。麻酔が切れた後、少量の出血やそれに伴う腹痛が起こることがあります。出血量が多かったり、出血が長く続いたり、腹痛が強い場合などは、すぐに医療施設に連絡してください。

他にも、倦怠感が残るケースもありますので、麻酔を使用した場合、帰宅時には公共交通機関を利用し、車の運転は避けた方が無難です。また、採卵手術の日は、激しい運動は控え、体に負担がかからないように注意しましょう。

医師と相談し自分に合った採卵手術を

医療施設によっては、なるべく採卵時の負担を軽減するため、麻酔を打つ際の注射針や採卵針の太さに配慮しているところがあります。痛みに弱い方や緊張が強い方に対しては、採卵数が少ない場合でも麻酔を使用したり、抗不安薬で不安を和らげたり、医療スタッフが親身に声がけをしてくれる施設もあります。

これまで手術を受けたことが無く、不妊治療で初めて手術や麻酔を経験する方も多いでしょう。手術を受ける前に怖さや不安を感じるのは、決して珍しいことではありません。何か分からない点があったり、不安になった場合には、一人で悩まずに医師や看護師などに相談し、自分に合った採卵手術を安心して受けられるようにしましょう。

(文/メディカルトリビューン編集部)