子どもが出来ない、という理不尽な思い。それを乗り越えるのは、身体合わせではなく、夫婦の心合わせでした|ヒキタ クニオさん

2019.9.10

ヒキタクニオ

ヒキタ クニオ さん

1961年、福岡県生まれ。イラストレーター、マルチメディアクリエイターとして活躍後、2000年『凶気の桜』(新潮社)で小説家デビュー。その後、窪塚洋介主演で映画化される。続けて『鳶がクルリと』(新潮社)が観月ありさ・哀川翔主演で映画化。2006年、『遠くて浅い海』(文藝春秋)で第8回大藪春彦賞を受賞する。2019年、自らの不妊治療体験を著した『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(光文社文庫)が松重豊・北川景子主演で映画化され、10月4日、全国120館で公開予定。現在、映画化進行中の『触法少女』(徳間書店)の脚本を担当。近著としては、『バブル・バブル・バブル』(文藝春秋)が9月に発刊予定。


約5年の間、タイミング法から人工授精、顕微授精と、私たちの周りでは「オール」といわれていた不妊治療を続けて、どうにか子どもを授かりました。その期間を通じて、大切なのは夫婦の心合わせ、この一言に尽きると感じましたねえ。

不妊治療に関して、個人的にはもうこれ以上ないというくらい進歩したと思います。治療法は出来ている。でも産まれない。それは何故か? もしかすると、患者である夫婦の心合わせが出来ていないのも原因の一つなんじゃないかなと思います。「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」を書くに当たり、よく言われたのが、「うちの夫が非協力的で」とか、「恥ずかしがって話に乗らない」とかの奥さんからの話でした。私は不妊治療を始めた瞬間から、治療をしていることを公言するようにしました。それは作家の羞恥心のなさであるでしょうが、とにかく、妙なことをさせられて面白いと感じたので、色々な人に「不妊治療を始めてさ、それがねえ」と話していました。「ヒキタさん、うちの旦那にちゃんとやれ、と言ってくれない」なんてこともよくお願いされました。そうこうして、本を書いたんですね。

では、不妊治療をする旦那、夫、男たちへ。

不妊治療をするのが恥ずかしいなんてこと言ってんじゃない。奥さんは、何倍も恥ずかしい思いをすることもある。そして身体的負担は、夫側の何倍もある。まったくもって、不妊治療の医療的な部分では、女性側の負担が大きい。そんな状態であるにも関わらず、夫が非協力的だなんて、同性として恥ずかしくなった。

自分が好きで好きで堪らなくなった女性、この女性と家庭を持ちたいと願ってやっとの思いで結婚したんだろう? 二人だけの家庭から、子どもを作って家族になろうと思ったんだろう? しかし、子どもが出来ない……。世の中には、そんな理不尽なこともある。

さあ、そこで不妊治療。奥さんが子どもを作り産みたい、と思ってくれてるんだろう?

私の場合は奥さんから「ヒキタさんの子どもが見てみたい」という一言にやられました。ありがたい、と感じましたねえ。

奥さんはときに痛い思い、きつい思いをして治療を続けている。男の何倍もの負担を負いながら……。さあ、そんなとき男は、夫は、どうする?

がんばるしかないだろう。

さあ、これとないチャンスがやって来たんです。それは、もう一度、奥さんに惚れてもらうチャンスなんですよ。文句など一言も漏らさず、採精室へ向い、奥さんに協力し、全力で支え、がんばってがんばって働いて高額な治療費を払う。その姿を見てもらうことで、奥さんに、ああ、この人の子どもが欲しい、と思ってもらう。それが心合わせであり、不妊治療を成功させる一つの要因でもあると思います。

奥さんは、がんばってる男の子どもが欲しいんですから。