体外受精(IVF)でピルが使われるってホント?

2019.10.8

ピル

「ピルは何のための薬?」と聞かれたら、誰もが「避妊のための薬」と答えるでしょう。もちろんそれは正解です。しかし実際にはピルは避妊以外にも過多月経や月経痛、PMS(月経前症候群)の改善などさまざまな目的で使用されています。さらにピルは体外受精(IVF)においてもその副効用(本来の効能以外の好ましい効果)をうまく利用して、“妊娠を成功させるために”使用される場合があります。ここでは体外受精におけるピルの役割について解説します。

ピルによる避妊の仕組み

ピルは女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が含まれた経口避妊薬です。現在、避妊目的や婦人科疾患の治療で使用されているピルのほとんどは、エストロゲン量を50μg未満まで引き下げた低用量ピルです。ピルを正しく服用して妊娠する確率はわずか0.3%で、安全性も高いことから世界中で多くの女性が使用しています。

避妊目的でピルを使用する場合、通常は月経開始時から1日1回のペースで服用します。これにより血中のエストロゲンとプロゲステロンの濃度が上昇します。本来これらの血中濃度が高まるのは妊娠中であるため、脳は「妊娠した」と錯覚し下垂体からのホルモン分泌を停止します。その結果卵巣での卵胞の発育が抑制され、排卵が起こらなくなります。さらにこれに伴って子宮内膜の増殖も抑制され、受精卵が着床しにくい状態になります。

不妊治療におけるピルの役割

このように避妊効果が期待できる一方、意外にもピルは不妊治療においても使用されています。月経不順の人が妊活を始める場合、まずは月経周期を正常に戻すことが重要になりますが、ピルには避妊以外の副効用として月経周期のコントロールがあるため、月経不順や自然に生理が来ない状態のときに服用することで月経周期の調整やリセットが期待できるのです。

またピルを使用して排卵を抑制すれば、卵巣機能を休ませてコンディションを整えることができます。さらに子宮内膜の増殖を抑えることで、不妊症の原因となる子宮内膜症を予防する効果も期待できます。

体外受精でピルを飲むタイミング

このように避妊目的だけでなく不妊治療でも使用されているピルですが、体外受精においてはどのように用いられているのでしょうか。

タイミング法、人工授精(AIH)といった「一般不妊治療」の次のステップとして考慮される体外受精は、排卵直前の卵子を卵胞から取り出し、洗浄・濃縮した精子をふりかけて受精させ、受精卵(胚)を2〜5日間培養してから子宮内に移植するという治療法です。多くの場合で排卵誘発剤を使用し、卵巣を刺激して複数の卵子を採取します。

気になるピルを服用するタイミングですが、排卵誘発を行う前周期の月経中から14〜28日間程度とされています。月経周期の調整や遺残卵胞(前周期の古い卵胞)の解消のほか、卵巣機能を休ませることで採卵前の排卵を抑制し、卵子の質や大きさを整えることなどが目的です。使用されるのは主に低用量ピルですが、クリニックによっては患者の状態に合わせてエストロゲン含有量が50μgの中用量ピルが用いられることもあります。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)値の低下や副作用は一時的

「ピルを飲むとAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が下がるのでは?」と心配する人も多いのではないでしょうか。AMHは発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンで、卵巣内に残っている卵子の在庫を示す「卵巣予備能」のおおよその目安になるものです。確かにピルの服用中は卵巣が休んでいるためAMHの値がやや低下する傾向にありますが、これは一過性のもので服用を中止すればすぐに元に戻ります。

ただしピルの服用中には吐き気、倦怠感、頭痛、めまい、乳房の張り、不正出血といった副作用の症状が現れることがあります。これらの多くも一時的なもので飲み始めて2〜3カ月が経過すれば消失しますが、症状が続く場合は主治医に相談してみましょう。ピルを服用しなければ体外受精が受けられないというわけではありませんので、専門の医師やカウンセラーと相談しながら自分の体調に合わせた治療法を選択することが大切です。

(文/メディカルトリビューン編集部)