不妊治療で処方される薬について

2019.12.10

様々な薬

不妊治療ではさまざまな薬が処方されますが、薬と聞くと副作用や赤ちゃんへの影響が気になる方もいるかもしれません。どのような薬を処方されるのか理解しておくことが、そうした心配を回避するためにも大切です。ここでは不妊治療で女性に対して使用される主な薬について解説します。

排卵を促す「排卵誘発剤」

不妊治療では多くの場合、卵胞を発育させて排卵を促すため、脳下垂体から分泌される黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)に作用する排卵誘発剤が処方されます。排卵誘発剤は排卵障害に対する治療だけでなく、妊娠の確率を高めるため、人工授精(AIH)や体外受精(IVF)といった生殖補助医療(ART)でも使用されます。

排卵誘発剤の種類は、脳下垂体に作用するクロミフェンやシクロフェニルといった経口剤と、卵巣に直接作用するhMG製剤、精製FSH製剤、遺伝子組み換え型FSH製剤といった注射剤に分かれます。注射剤は経口剤が有効でない場合に処方されクリニックで注射を行うものと自己注射できるものがあります。

【表:排卵誘発剤の種類】

剤型 名称
経口剤 クロミフェン、シクロフェニル
注射剤 hMG製剤、精製FSH製剤、遺伝子組み換え型FSH製剤

ただし排卵誘発剤は、卵巣腫大や血液濃縮を引き起こす卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用の原因となる場合があるので注意が必要です。のどの渇き、尿量の減少、体重増加、腹部の張りといった自覚症状が現れたらすぐに主治医に申し出てください。

体外受精ではこのほかに、排卵をコントロールして良質な卵子を得る目的でGnRH誘導体製剤という薬が処方されることもあります。GnRH誘導体製剤はもともと子宮内膜症の治療薬でしたが黄体化ホルモンを抑制する働きが注目され、体外受精などで排卵を調節したいときに使われるようになりました。スプレキュア、ブセレキュアといった点鼻薬のほか、セトロタイドといった注射剤などがあります。

子宮や卵巣を整える「女性ホルモン剤」

受精卵が着床するには黄体ホルモン(プロゲステロン)が必要です。血液検査でプロゲステロンの分泌が不足していると判断された場合、着床を促したり妊娠を継続するため黄体ホルモン製剤を使用してプロゲステロン補充する必要があります。黄体ホルモン製剤には、経口剤、腟挿入剤、注射剤があります。

ほかにも受精卵が着床するには、卵胞ホルモン(エストロゲン)によって子宮内膜を厚くし受精卵が着床しやすい状態を整えておく必要もあります。プロゲステロンと同様、血液検査でエストロゲンの分泌が不足していると判断された場合、卵胞ホルモン製剤が使用されます。卵胞ホルモン製剤には経口剤と貼付剤があります。

さらに不妊治療では、排卵を抑制して卵巣の調子を整えるため、プロゲステロンとエストロゲンの両者が配合された低用量ピルが処方されることもあります。

【表:女性ホルモン剤の主な種類】

種類 剤型 名称
卵胞ホルモン剤 経口剤 プレマリン、ジュリナ
貼付剤 エストラーナテープ
黄体ホルモン剤 経口剤 ルトラール、デュファストン、
注射剤 プロゲホルモン、プロゲステンデポ-S、ルテスデポー
膣坐薬 ルティナス、ウトロゲスタン、ワンクリノン

高プラクチン血症の治療でも薬を使用

不妊症の原因となる病気の一つに高プラクチン血症があります。プラクチンとは脳下垂体で分泌されるホルモンで、乳腺を刺激して母乳の分泌を促進する働きがあります。高プラクチン血症では、妊娠も出産もしていないのにプラクチンが過剰に分泌されるので排卵が抑制されて不妊を引き起こします。治療では主にパーロデルという経口剤を用いて高プロラクチン状態の改善を試みますが、下垂体の腫瘍が原因の場合は手術が必要です。

薬の種類や剤形、処方期間などはさまざまな検査結果や患者さんの症状を踏まえ総合的に判断されます。わからないことや不安な点があれば医師や薬剤師と相談するようにしましょう。