不妊治療中にインフルエンザの予防接種を受けてもいいの?

2019.10.3

注射

不妊治療中に別の病気にかかると、処方された薬が自分の体や生まれてくる赤ちゃんに悪影響を及ぼさないか心配になりますよね。なかでもインフルエンザのような感染症は必ずしも罹患するとは限らないので、予防接種を受けるべきか迷う人も多いのではないでしょうか。ここでは不妊治療中におけるインフルエンザワクチンの接種について解説します。

不妊治療中・妊娠中に接種しても安全

体内に免疫を作り出し病気を予防するワクチンは、含有されている成分の違いから「生ワクチン」と「不活化ワクチン」に大別されます。生ワクチンは病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めたもので、強い免疫力を発揮する一方、接種後に軽微な症状が現れることがあります。不活化ワクチンは病原体となるウイルスや細菌をいったん薬剤で処理し、感染力や毒性を完全に除去した成分から作られたもので、生ワクチンと比べると免疫力は強くありませんが安全に使用することができます。現在日本で接種されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。

インフルエンザワクチン接種による副作用には10〜20%の確率で発赤、はれ、痛みが、5〜10%の確率で発熱、頭痛、寒気、だるさといった症状が現れるとされています。しかしこのような副作用は不妊治療中や妊娠中に特有のものではありませんし、妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種した女性を対象にした研究などから、接種により赤ちゃんの先天異常発生率は増加しないことが分かっています。こうしたことから、不妊治療中や妊娠中にインフルエンザワクチンを接種しても、赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはないと考えられています。

妊娠中はインフルエンザが重症化しやすい

逆に妊娠中にインフルエンザにかかると、重度の合併症や入院のリスクが高まるため注意が必要です。医学誌American Journal of Epidemiology1998年12月号に掲載された報告によると、インフルエンザにかかり心肺機能が低下して入院するリスクは、妊娠14~20週で通常の1.4倍、27~31週で2.6倍、37~42週で4.7倍に上昇していました。

これは妊娠中は胎児を受け入れるため母体の免疫機能が低下傾向にあり、ワクチンによる免疫獲得能力も妊娠していないときと比べて下がることから、インフルエンザに感染しやすくかつ重症化しやすくなるためです。しかし研究の進展により現在の不活化インフルエンザワクチンでは、こうした妊娠中の免疫の変動に関係なく約90%の割合で免疫獲得が可能であるとされています。

ワクチン接種後に獲得された免疫は、少しずつ低下するものの出産時まで持続します。さらに母体の免疫が胎盤を介して胎児に移行することから、生まれてきた赤ちゃんは出産時に既にインフルエンザ感染を防ぐのに十分な免疫を獲得していることが分かっています。

こういった理由から日本産科婦人科学会のガイドラインでも「インフルエンザワクチン接種の母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じてきわめて低い」「ワクチン接種を希望する妊婦には接種する」と記載されています。もちろんインフルエンザは感染症ですから女性だけでなく、パートナーや同居中の家族みんなでワクチンを接種しておくことが大切です。

もしインフルエンザにかかってしまったら

では、もし不妊治療中や妊娠中にインフルエンザにかかってしまったら、抗インフルエンザ薬を使用しても心配ないのでしょうか。

日本産科婦人科学会は妊婦がインフルエンザにかかった場合、発症後48時間以内の抗インフルエンザ薬の使用が重症化を防ぐとして、タミフルやリレンザといった薬の使用を推奨しています。

最も避けなければいけないのは不妊治療中や妊娠中は薬の服用が厳禁だと思い込み、適切な予防も治療も行わずインフルエンザの症状を悪化させてしまうことです。もしインフルエンザにかかってしまったかなと思ったら、医療機関を速やかに受診し医師に不妊治療中であることを伝えて適切な治療薬を処方してもらいましょう。

(文/メディカルトリビューン編集部)