不妊症は遺伝するの?しないの?

2019.4.1
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健康診断や病院の問診票に「家族歴」(患者の家族・近親者の病歴)を記入する欄があるのはなぜでしょうか。それは、親から子へ遺伝する可能性が高い病気をあらかじめ確認することで、正しい診断や適切な生活指導に役立てることができるからです。

不妊症と遺伝の関係

それでは、妊娠についてはどうでしょうか。不妊を心配する女性のなかには、「母親に似て妊娠しにくい体質なのかもしれない」「母親と同じ婦人科系の病気を患っているため妊娠できないのでは」と悩んでいる方も少なくないかもしれません。女性の「妊娠しやすい」「妊娠しにくい」という体質は、親から子に遺伝するのでしょうか。また、男性の場合はどうなのでしょうか。ここでは、不妊症と遺伝の関係について解説します。

女性の不妊と遺伝との関係ははっきりしていません

結論から言うと、女性の「妊娠しやすい」「妊娠しにくい」という体質と遺伝の関係について、医学的な結論は出ていません。母親の出産経験が少ないからといって妊娠しにくいとは限りませんし、逆に、母親が子だくさんだからといって妊娠しやすいともいえません。むしろ、思い込みによって妊娠を諦めたり過度に安心してしまうと、妊娠や不妊治療の適切なタイミングを逃してしまう恐れがあるため、注意が必要です。

子宮内膜症など不妊の原因になる病気には注意

ただし、体質ではなくご家族が不妊の原因になる病気を持っている場合、話は別です。病気が遺伝して妊娠の邪魔をしている、あるいは将来邪魔をする危険性が高まることがあります。

遺伝との関連の可能性が指摘されている婦人科系の病気に、「子宮内膜症」があります。子宮内膜症は、本来は子宮の内側にしか存在しない子宮内膜組織が、子宮以外の卵巣や卵管などで増殖する病気です。子宮内膜症になると、卵管の癒着などで卵巣から子宮への通路がふさがれ、不妊症の原因となります。不妊女性の約3割に見られるとも言われており、月経痛や下腹部痛が自覚症状として現れます。

子宮内膜症の原因ははっきりと分かっておらず、月経血の子宮から卵管への逆流が関与すると言われますが、遺伝との関連の可能性も指摘されています。子宮内膜症は発見が早いほど治療しやすく、妊娠の可能性も高まりますので、ご家族や親族に子宮内膜症を経験された方がいる場合、医療機関を受診してはいかがでしょうか。また、子宮内膜症を疑って医療機関を受診することは、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど不妊の原因となる別の病気を見つけることにもつながります。

男性の不妊症は遺伝と関係している可能性があります

実は不妊症と遺伝の関係は女性よりも男性の方が気がかりです。男性不妊の原因の1つに十分な精子を作ることができない「造精機能障害」がありますが、この障害の代表的な症状である「乏精子症」と「無精子症」は遺伝と関係すると言われています。

乏精子症と無精子症

乏精子症は精液中の精子の数が少ない状態、無精子症は精液中に精子が全く確認できない状態で、成人男性の100人に1人は無精子症であると言われています。無精子症には、精巣で精子が作られているにも関わらず精子の通り道が閉じてしまっている「閉塞性無精子症」と、精子を作る能力そのものが落ちてしまっている「非閉塞性無精子症」の2つのタイプがありますが、精子を作る能力に問題がある乏精子症と非閉塞性無精子症は遺伝的要素が背景にあるケースがあります。

男性不妊の診断では精液検査により精子の数や状態を確認しますが、精子の数が極端に少ない場合には染色体や遺伝子を調べることが可能です。もし非閉塞性無精子症と診断されたとしても、顕微鏡による観察で精巣内にわずかでも精子が作られていることが確認できれば、手術により精子を採取し、顕微授精を行うことで妊娠できる可能性があります。

  閉塞性無精子症 非閉塞性無精子症
原因 先天性精管欠損症   先天性(染色体の状態や遺伝子の欠失) ・抗がん剤による治療
精子採取法 精路再建術 ・精巣内精子採取術(TESE) ・精巣内精子回収術(TESA) ・精巣上体精子回収術(MESA) ・経皮的精巣上体精子回収術(PESA) 顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)

気になったらまずは医療機関を受診してみましょう

このように現代の医学では、特に男性が原因の不妊症で遺伝との関連が指摘されています。しかし、男性の乏精子症と非閉塞性無精子症、そして女性の子宮内膜症も、治療を行うことで妊娠の可能性を高めることができます。なかなか妊娠できず、これらの病気が疑われるような場合は、遺伝の影響だからと妊娠を諦めるのではなく、まずは医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

(文/メディカルトリビューン編集部)