体外受精と顕微授精はどう違うの?

2019.10.10

診療

現在、日本ではおよそ20人に1人の赤ちゃんが「生殖補助医療(ART)」によって産まれていると言われており、この割合は年々増加傾向にあります。生殖補助医療には、卵子を体外に取り出して精子と受精させる「体外受精(IVF)」と、人間の手を用いて顕微鏡下でガラス針により精子を卵子に注入する「顕微授精(ICSI)」があります。ここでは、体外受精と顕微授精の違いについて解説します。

採卵・採精から胚移植までの流れは同じ

体外受精も顕微授精も、卵子と精子を体外に取り出し、受精卵(胚)を子宮内に戻すまでの一連の流れは基本的に同様です。

生殖補助医療の流れ

  1. 採卵・採精:女性の卵巣から卵子を、男性の精液から精子を採取します。卵子は培養皿の中で培養して成熟させます。
  2. 受精:成熟した卵子と精子を受精させます。
  3. 胚培養:受精卵を数日間培養し、胚盤胞という着床前の状態まで発育させます。
  4. 胚移植:受精卵(胚)を子宮内に戻します。

1〜4の4段階のうち、体外受精と顕微授精で大きく異なるのが、2.受精です。体外受精では、卵子が入った培養液の中に数万から数十万個の運動する精子を入れて受精させます。一方、精子の量が少なかったり、濃度や運動率が低いといった理由で体外受精による受精が成立しない場合、細いガラス針の先端に精子を1個入れて、顕微鏡で確認しながら卵子に直接注入する顕微授精が行われます。

体外受精と顕微授精の特徴

体外受精では自然の状態と同様、精子が自分の力で卵子に入り込むため、卵子の細胞膜が破れて変性したり、壊れてしまったりすることはまずありません。しかし、濃度や運動率で一定の基準を満たした精子が、1回あたり数万から数十万個必要になります。

一方、顕微授精の場合、1個の精子を1個の卵子に直接注入するため、1個の精子だけで受精が可能です。しかし、細いガラス針を使用して注入するので、卵子の細胞膜が弱いとまれに卵子が変性してしまう場合があります。費用はクリニックによって異なりますが、顕微授精を行なった場合、1回あたり3〜5万円程度が体外受精の費用に加算されます。

顕微授精は重度男性不妊の選択肢に

体外受精とは異なり顕微授精では、たった1個の精子で受精が可能であることから、重度の男性不妊の患者さんでも妊娠が期待できます。精巣の造精機能が障害されている非閉塞性無精子症の場合、陰嚢を切開して顕微鏡により精子を探し出す「顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE/Micro-TESE)」と呼ばれる手術を行い、採取した精子を顕微授精で卵子に注入します。

一方、精巣内で精子が作られているものの精路が閉塞して射精できない閉塞性無精子症の場合は、手術で精路の閉塞を解除することができれば自然妊娠が期待できます。ただし、精路再建が難しい場合、陰嚢を切開して精巣組織の一部を採取する「精巣内精子採取術(Simple-TESE)」や精巣上体に針を刺して精子を回収する「経皮的精巣上体精子吸引術(PESA)」といった手術を行い、採取した精子を顕微授精で卵子に注入します。

このように、顕微授精は赤ちゃんを望む男性不妊の患者さんにとって、まさに福音と呼べる治療法ですが、リスクも指摘されています。近年、研究の進展により、非閉塞性無精子症の原因の一つに、Y染色体と呼ばれる遺伝子の一部に欠失があることが明らかとなっています。顕微授精を行なった場合、男の子の赤ちゃんに対し、この非閉塞性無精子症が遺伝する可能性が指摘されています。

納得いくまで相談しましょう

体外受精、顕微授精どちらを選択したとしても、生殖補助医療では採卵・採精と胚移植以外にも各種検査や排卵誘発剤の使用が必要なため、通院回数も多くなり、身体的・精神的な負担は決して少なくありません。医師から生殖補助医療の提案があれば、それぞれの特徴についてしっかり理解し、納得がいくまで相談してみましょう。

(文/メディカルトリビューン編集部)