甲状腺の病気と不妊の関係

2019.8.22

甲状腺

最近だるくてしかたない、すぐに疲れるなど、原因が思い当たらない不調を感じることはありませんか。その不調の原因は、女性に多い甲状腺の病気のせいかもしれません。甲状腺の病気は、主に甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、甲状腺腫に分かれ、なかでも甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症は不妊や流産のリスクになると言われています。ここでは、甲状腺の病気と不妊の関係について解説します。

甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進

甲状腺はのどぼとけの下にあり、チョウが羽を広げたような形をした臓器です。甲状腺では甲状腺ホルモン(T3:サイロキシン、T4:トリヨードサイロニン)が産生され、血液中に分泌されています。この産生と分泌は、脳の視床下部からの指令を受けた脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によりコントロールされ、適正な量に維持されます。

甲状腺ホルモンは、新陳代謝を促進して体を元気にする働きがあります。また、妊娠の成立や維持、胎児や子供の発育に重要なホルモンでもあります。しかし、何らかの原因で甲状腺ホルモンが過剰になったり不足したりすると、代謝が異常に上がったり、あるいは低下してしまいます。

甲状腺の病気は自覚症状がない場合が多い

甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌され血液中の量が多い状態を甲状腺機能亢進症と呼び、代表的な病気にバセドウ病があります。全身の代謝が上がるため、疲れやすい、1日中動悸がする、汗が止まらない、手や指が震える、息切れがする、ダイエットしていないのに痩せてきた、イライラする、下痢、月経異常などの症状が現れます。

一方、甲状腺ホルモンの産生・分泌量が減少するのが甲状腺機能低下症で、代表的な病気が橋本病です。代謝が低下するため、疲れやすい、脈が遅くなる、寒気がする、皮膚が乾燥する、眠気、無気力、食べる量は少ないのに体重が増える、むくみ、脱毛、便秘、月経不順などの症状が現れます。

こうした甲状腺の病気は、病院で血液中の甲状腺ホルモンやTSHの量を調べてもらえばすぐに分かります。しかし、日常で経験する症状のものも多いため、甲状腺の病気とは気づかず知らないうちに我慢していたり、ストレスや疲れのせいにしてしまっている人も多いと言われています。

不妊や早流産に関連、胎児へ影響する可能性も

明らかな症状が現れる顕性甲状腺機能亢進症あるいは顕性甲状腺機能低下症は、不妊や早産、流産と関係することや、胎児へ悪影響を及ぼすことが分かっており、治療が必要となります。顕性甲状腺機能亢進症では卵胞の成長が早くなって月経周期が短くなり、頻発月経となって不妊のリスクが高まります。一方、顕性甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンの分泌量低下に伴い、TSHと本来は産後の授乳中に産生されるプロラクチン(PRL)ホルモンの分泌量が上昇して排卵障害や無月経となり、不妊の原因となることが分かっています

一方、症状に現れない軽度の機能低下を、潜在性甲状腺機能低下症といいます。潜在性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの値は正常であるもののTSHが高値となり、そのためプロラクチンも上昇して不妊症を引き起こします。1981年から2008年までに行われた9つの研究を統計すると、不妊女性における潜在性甲状腺機能低下症の発症率は11.7%に上っていました。また、潜在性甲状腺機能低下症に伴うプロラクチンの上昇が流産と早産の危険性を高めることも分かっています。

妊娠までに治療しておきましょう

このように、症状に現れない程度の軽い甲状腺の機能異常でも、不妊の原因となる場合があります。また、甲状腺の病気を抱えたまま妊娠すると、流産、早産、胎児への悪影響などのリスクも高めてしまいます。

医療機関では不妊治療を始める前に甲状腺の病気の有無を検査し、病気が見つかれば治療を行います。治療は薬の内服が中心ですが、甲状腺機能亢進症ではアイソトープ治療(放射性ヨウ素剤の服用)や手術を行う場合もあります。ただし、その治療もある程度の期間を要しますので、妊娠を希望している女性は、できるだけ早い機会に甲状腺の検査を受けることをお勧めします。

(文/メディカルトリビューン編集部)