知っていますか? 男性が原因の不妊症|小堀 善友 さん

2019.4.1

小堀 善友 さん(泌尿器科医)
1975年、埼玉県生まれ。泌尿器科医。獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター准教授。専門は、男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。書籍の執筆やブログ等の配信を通して、男性の「性」や妊活における男性の心構えなどをユーモラスあふれる文体で伝えている。4人の男の子の父。

実は半数近くを占める「男性不妊症」

少子高齢化と言われている現代社会において、赤ちゃんが欲しいのに作ることができない「不妊症」はとても重大な問題です。普通に夫婦生活を持って、1年間赤ちゃんができない状態は「不妊症」であると定義されます。赤ちゃんを産むのは当然女性なのですが、そのパートナーである男性が原因となる不妊症、つまり「男性不妊症」があることをご存知でしょうか?

 下の図1は、世界保健機関(WHO)が発表した不妊症の原因を男女別に調査したデータです。これを見ると、男性のみが原因の場合が24%、男女両方に原因がある場合が24%、合計48%、つまり不妊症の半数近くが男性側に原因があることが分かります。

不妊症の原因の男女比

では、日本国内ではどのくらいの数の男性不妊症患者さんがいるのでしょうか?

現在、赤ちゃんを作る可能性が他の世代より高い青年世代(25〜40歳)の男性人口はおおよそ1,500万人います。その中の、3分の2は結婚するとされています。また、不妊症が占める割合は近年上昇傾向にあり、現在は6組に1組のカップルが不妊症であることが分かっています。さらに、上記のデータを基に男性側が原因の不妊症を約半分として計算すると…

15,000,000人 × 2/3 × 1/6 × 1/2  =  833,333人

かなり大雑把な計算ですが、なんと日本国内では80万人以上の男性が不妊症である可能性があります。これは、同世代の糖尿病患者よりも多い数字なのです。

男性不妊症…その原因は?

不妊症の原因が男性側にあると考えて、不妊症外来を受診される男性がいます。2014年度に日本国内の男性不妊症外来を受診した患者さん7,253人を調査したところ、その大半は造精機能障害(5,991人)でした(平成27年度子ども・子育て支援推進調査研究事業より)。このほか閉塞性精路障害(286人)と、性機能障害(980人)の男性もいます。これらの原因は1つではなく、複数が重なっている場合もあります。(図2

男性不妊症患者疾患別内訳

 

男性不妊症に多い「造精機能障害」とは

男性不妊症の大半を占める「造精機能障害」は、精液の中の精子が少なかったり、精子の運動が悪かったりすることが原因で妊娠しにくい状態をいいます。一般的に、精液量1.5ml以上、精子濃度1,500万/ml、精子運動率40%以上でないと、自然妊娠は難しいとされています。

 時に、精液中に全く精子がない「無精子症」という場合もあります。無精子症の原因として、精子が精巣で作られにくい状況になっている「非閉塞性無精子症」と、精子が作られているのに精子が出てくることができない「閉塞性無精子症」があります(閉塞性に関しては、後述します。)

 造精機能障害の場合、原因が分かるものがあれば、その原因を治療することにより、精子の数や運動を改善させることができて、妊娠につなげられる可能性があります。たとえ無精子症であっても、精巣の中の精子を手術で採取することができれば、自分の子供を持つことができる可能性があるのです。しかし、造精機能障害の半分は原因不明です。そのため、治療が難しく、体外受精などの生殖補助医療が必要となります。

精子が出来ていても出られない「閉塞性精路障害」

精巣の中で精子が作られているのに、出てくることができない状態のことを「閉塞性精路障害」といいます。生まれつき精子が精巣から出てくるための精管がない人もいますし、クラミジアなどの性感染症が原因で精管が詰まってしまう人もいます。

 治療法は、顕微鏡を用いて精管をつなぎ直す外科手術が適応になる場合もありますが、最終的には精巣の精子を採取する手術を行い、顕微授精が必要となる可能性が高いです。

セックスが完遂できない「性機能障害」

勃起や射精をすることが難しく、セックスを完遂することができないことが不妊症の原因となっている場合、「性機能障害」といいます。

 勃起障害はバイアグラ、レビトラ、シアリスといったPDE5阻害薬という薬が非常に効果的であるため、多くの人は治療が可能です。しかし、射精障害の治療は難しい場合が多いのが現実です。

 不妊治療の現場で最も問題となる射精障害はマスターベーションでは射精することができるにもかかわらず、セックスをする際に膣の中で射精することができない「膣内射精障害」です。多くは幼少期からのマスターベーション方法が間違っている場合や、心理的なものが原因となりますが、効果的な薬剤がないため、カップルでカウンセリングを受けることが一般的です。治療には時間が要するため、早く赤ちゃんを希望する場合には、人工受精などを受けることが一般的です。

とりあえず受けてみよう、精液検査

「俺はちゃんと勃起して射精ができているのだから、精子がいないわけがない!」と考えている人は、実際にたくさんいらっしゃいます。このことをとある婦人科のドクターは「男の沽券問題」と言っていました。多忙やプライド、羞恥心が邪魔をして、精液検査を希望しない男性が多いのです。確かに、不妊症を扱うクリニックは「レディースクリニック」などという名称が多く、男性が積極的に受診しづらい状況であることは否めません。

 冒頭から述べてきたように、不妊症の原因の半分は男性側にあります。男性が検査を受けないことで不妊症の診断が遅れてしまうことがあるため、治療も開始できません。年齢が上がるほど不妊治療の成功率は低下するとされていますので、これは非常に重要な問題なのです。

 男性側で不妊症をスクリーニングするのに最も重要な検査は、精液検査です。これは、女性サイドの検査よりも簡単です。私は、とりあえず精液検査を受けていただくことをお勧めします。

 「性」にまつわる病気、例えば不妊症や性機能障害(勃起や射精の問題)の悩みは、「恥ずかしい」という感情が「治療を受けたい」という希望を上回ることにより、必要な時期に適切な治療を受けられない患者さんも多いです。病院を受診するということにハードルの高さを感じる人もいると思います。

 それなら、自宅でできる限り自分の状態を調べることができたら、便利だと思いませんか? そのような人たちを対象として、Seem(図3)やメンズルーペ(図4)といった自宅でスマートフォンを用いて精液の状態をセルフチェックできるキットも販売されています。私自身はメンズルーペの開発に携わっていて、その時に行った研究はアメリカで高く評価されました。

図3)Seem
seem

図4)TENGA メンズルーペ
TENGA メンズルーペ

「オトコから取り組む不妊治療」へ

男性の不妊症のスクリーニングは、女性よりも簡単で、自宅でも行うことができます。私は、不妊治療が今後「オトコから」行われるように意識が変わっていくことに期待しています。オトコから取り組む不妊治療という文化が、日本から広がる日も近いと信じています。