不妊治療と男性のメンタルヘルス

2019.12.5

問診

赤ちゃんを授かることに対して、世間の目は未だ女性に向けられがちです。しかし、世界保健機関(WHO)のデータによると不妊原因の50%近くは男性側にあることから、近年、男性不妊の研究も進められてきました。では、不妊治療は男性の心理にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。ストレスの感じ方には個人差があり全てがあてはまるわけではありませんが、不妊治療を男性がどのように感じているのか、妊活を検討中の女性は参考にしてみてください。

男性側に原因があると告げられたとき

カップルは不妊であること、あるいは不妊治療を受けていることをオープンにしない傾向があるとされます。確かに、不妊という同じ課題をカップルだけで共有することで二人の信頼感や親密感が増し、治療の辛さを分かち合うことができるかもしれません。その一方で、不妊の原因とされた側の苦悩やパートナーへの罪悪感は増大し、親御さんなど周囲からの重圧により、孤独感などが強くなると考えられています。

特に男性側に原因がある場合そうした罪悪感や孤独感に加え、男性は「男性としての無力感」「世代を継続できない失望感」を感じやすい傾向にあるとされます。その一方で、男性は自身の親や兄弟に対して「自分達の気持ちをわかろうとしない」と被害者意識を募らせたり、不妊治療を専門とした医療機関のスタッフに対して「女性への対応だけを重視している。」といった不満を感じることもあるようです。

ストレスが招く心因性不妊も

こうした男性の心理状態が続くと、ストレスとなって不妊につながる可能性があります。医学誌Fertility and Sterility2003年6月号に掲載された論文によると、精液中の精子の数が少ない「乏精子症」と心理的ストレスの間で関係が認められました。心理的ストレスによって男性ホルモン(テストステロン)の分泌を促す黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が低下すると、精子の数が減少して不妊につながると考えられています。

また、不妊治療の最初のステップとして排卵日に合わせて夫婦生活を持つ「タイミング法」がありますが、最も妊娠しやすいとされる排卵日の1〜2日前に義務的に性交渉することがストレスやプレッシャーとなって心因性の勃起障害(ED)に陥ってしまい、これが不妊につながってしまうケースもあります。

男性対象の公的サポートも拡充

妊活に臨む男性の年齢層は、多くの場合30〜40代といった働き盛りの年代です。仕事のストレスや職場の人間関係などに加え、多大な時間とエネルギーが必要な不妊治療に直面したとき、男性として悩みを抱えてしまうのは当然のことだと言えます。お互いにパートナーの気持ちを理解してみよう、歩み寄ってみようという心持ちを持つだけでも、治療に伴うストレスが軽減し、二人の関係性がよりよい方向に進むかもしれません。

なお、不妊治療における経済的な不安に対しては、厚生労働省は不妊治療を受ける男性への助成を2019年度から初回に限って15万円から30万円に引き上げ、女性への支援と同水準に変更しました。こうした公的サポートも活用しながら、専門の医療機関で医師やカウンセラーに相談してみてはいかがでしょうか。

(文/メディカルトリビューン編集部)