人工授精ってどんな治療法? 痛みはある?

2019.7.4

腹痛

人工授精(AIH)とは、パートナーから採取した精液を洗浄・濃縮し、細いカテーテルを用いて子宮内に直接注入する治療法です。「人工」という言葉から自然ではないという印象を受けるかもしれませんが、あくまで受精の確率を高めるために良好な精子を子宮内に注入するというだけで、受精・着床へ至る過程は自然妊娠と変わりません。今回は、人工授精の治療の流れについて解説します。

人工授精はタイミング法の次のステップ

通常、人工授精はタイミング法の次のステップとして行われます。軽度の乏精子症(精子濃度1500万/ml未満)や精子無力症(運動率 40%未満)で精子に問題がある、性交障害がある、フーナーテスト結果が不良(性交後頸管粘液内に運動精子が少ない)といった診断を受けた方が対象です。

原因不明不妊の場合も、生殖補助医療(ART)に進む前段階として人工授精が行われています。心身への負担が少ないことや、費用が比較的安価であること、毎周期に行えることなどが人工授精の大きな利点です。

排卵日を特定して実施

人工授精で重要なのは、実施するタイミングを排卵日に合わせることです。排卵日は過去の基礎体温データからおおよそ予測できますが、人工授精を行う場合、超音波検査で卵胞の発育状況を把握するほか、尿中黄体ホルモン(LH)濃度や血中LH濃度、さらにはエストロゲンの1つであるエストラジオール(E2)の血中濃度の計測などにより、正確性の高い排卵日を推定します。

排卵はLHが急激に分泌される「LHサージ」の後に起こるので、人工授精実施のタイミングは尿中LHサージが陽性となった翌日が最も適していることになります。LHサージを誘発するために注射や点鼻薬を投与した場合は、投与後36時間くらいに実施します。

また、人工授精は自然排卵で行う以外に排卵誘発剤を併用するケースもあります。使用する排卵誘発剤は、卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンの分泌を促進する内服薬のクロミフェンやシクロフェニル、卵巣に直接作用する注射剤のゴナドトロピン製剤などです。原因不明不妊の場合の妊娠率は排卵誘発剤を併用した人工授精の方が高く、特にゴナドトロピンを併用した場合が最も妊娠率が高いとされていますが、一方で多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群に対する注意が必要です。完全自然排卵で行うか、排卵誘発剤を併用するかについては、お仕事やご家庭の都合も踏まえた上で、専門の医師と相談して決めると良いでしょう。

人工授精の具体的な手順

次に、実際の人工授精の手順を見ていきましょう。精液は人工授精の実施当日に採取し、遠心分離器にかけて洗浄・濃縮します。こうすることで未熟精子や死亡精子などを取り除き、運動性の良好な精子を集めることができます。

これらの精子0.2〜0.5mlを細長いカテーテルに入れ、膣から子宮腔内に注入します。人工授精は子宮腔内への注入が基本ですが、ほかにも子宮の入り口に注入する頚管内注入、骨盤内の卵管近くに注入する腹腔内注入、バルーンカテーテルで精子を卵管まで行き渡らせる卵管内注入などの方法があります。卵管内注入では子宮腔内注入の6〜8倍の精子を注入するため、原因不明不妊には卵管内注入の方が有効だとされています。

注入後はすぐに帰宅して、普段通りの生活を送ることができます。2日後くらいに排卵の有無をチェックし、その後は着床率を高めるために数回にわたってLH補充療法を行う場合もあります。なお、人工授精で妊娠した場合の胎児の先天性異常発生率は自然妊娠と同様であり、この治療法による胎児への危険性は考えられません。

痛みはある?

気になる実施時の痛みですが、人工授精に使用するカテーテルは樹脂製の非常に柔らかいものであり、精子を注入する時間もほんの数秒ですので、痛みはほとんどありません。

人によってはカテーテルが入りにくく、子宮口付近で軽い痛みを感じたり、少量の出血が見られたりすることもありますが、すぐに治まるので心配は無用です。ただし、まれに感染して発熱するケースが見られるため、感染予防のために人工授精後2、3日間は抗菌薬が処方されることもあります。しかし、重篤な感染症の発症件数は少ないことから、安全な治療法であると言えます。

数回で妊娠しなければ次のステップも検討を

人工授精は自然に近い不妊治療法であることから、1周期あたりの妊娠率は5~10%と高くはありません。厚生労働省の研究によると、人工授精で妊娠するまでの平均治療回数は4.6回と報告されており、6回程度行っても妊娠に至らない場合は、次のステップである生殖補助医療を考慮することが勧められます。なかなか妊娠に至らない場合は、人工授精を漫然とくり返すのではなく、パートナーや専門の医師とよく相談して、早めに治療計画を見直すことが必要かもしれません。

(文/メディカルトリビューン編集部)