体外受精のプロセスと必要な時間は?

2019.7.30

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日本産科婦人科学会の調査によると、日本で体外受精により生まれてきた赤ちゃんは1989年からの25年間で12万人を超えたと言われており、既に多くの人が成人しています。体外受精は、卵子と精子が出会えるようにサポートする技術です。ここでは、体外受精が行われる手順と、必要とされるおおよその期間について解説します。

卵巣を刺激し複数の卵子を育てる

自然な排卵では1回の月経周期に1個の卵子が放出されます。この自然な排卵で得られた卵子を使う体外受精を自然周期法といいます。排卵誘発剤は使わず、採取できる卵子は1つだけです。

そのため多くの場合、体外受精では良質な卵子を複数個採取し妊娠の確率を高めるため、排卵誘発剤が用いられます。受精に最も適した状態で卵子を採取できるよう、ホルモン剤を1週間前後使用し、卵巣を刺激して複数の卵子を育て、卵胞を成熟させます。この過程は調節卵巣刺激(COS)と呼ばれ、アンタゴニスト法、ロング法、ショート法などがあり、ホルモン剤の投与方法や期間はケースによって異なります。いずれも月経開始3日目頃よりホルモン剤を注射しますが、ロング法では前周期の高温期7日目頃から、ショート法では月経開始2〜3日目頃からGnRHアゴニストという点鼻薬をあわせて使用します。

なお、調節卵巣刺激では、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用が起こることがあり、注意が必要です。これは、ホルモン剤によって卵巣が過剰に反応することで肥大し、腹水や胸水などが起こるというものです。重症になると、腎不全や血栓症などの合併症を引き起こすこともあります。

しかし早期に発見できれば、原因となったホルモン剤の中止によって改善する場合が多いので、むくみやお腹の張り、吐き気、急な体重増加、尿量減少などの症状が見られたら、すぐに医療機関に連絡するようにしてください。

卵胞が十分育ったら採卵・同じ日に採精

調節卵巣刺激により卵胞が十分に成熟したことを確認したら、排卵誘発剤を使用し、排卵する直前に採卵します。経腟超音波画像で確認しながら、膣から卵胞に採卵針という細い針を刺し、卵胞液とともに卵子を吸引します。状況により麻酔をかけて行う場合もありますが、このプロセスは十数分で終わります。

採卵時には、ごくまれに卵巣周辺の血管が傷つき腹腔内で出血を起こしたり、膣内の細菌が腹腔内に入ることで感染症を起こすことがあります。しかし、医療機関側が細心の注意を払って操作しますし、万一起こった場合は適切な対処が行われますので、過度な心配は必要ありません。

培養皿の中で受精、そして培養

採取した卵子と、採卵日の朝に採取した精液を洗浄、濃縮して調整した精子を、一緒に培養皿の中で数時間から一晩培養します。精子は卵子の周りに集まり、その中の1個が卵細胞に入ることで受精が完了します。

受精卵は、分割期胚(4細胞期胚、8細胞期胚)あるいは胚盤胞という状態に育つまで培養液の中で培養されます。期間は、分割期胚で2〜3日間、胚盤胞で5〜7日間ほどです。

子宮に戻す胚移植、余剰胚は凍結保存も可

超音波画像で移植する位置を確認しながら、良好な分割期胚あるいは胚盤胞をカテーテルを使って子宮内に戻します。胚移植自体は十数分で終わりますので、日帰りで行えます。

胚移植では、子宮に胚を1個戻す場合と複数個個戻す場合があります。複数個戻すことで妊娠の確率は上がりますが、多胎妊娠のリスクも高まります。多胎妊娠は切迫流産や早産になりやすいなどのリスクがあるので、日本産科婦人科学会は、胚移植は原則1個、女性が35歳以上、または2回以上続けて妊娠しなかった場合などは2個までと規定しています。

培養により複数の受精卵が得られた場合、余った胚を凍結保存し、次回に備えることが可能です。胚を凍結保存することで卵巣刺激や採卵、採精なしで胚移植ができます。

また、卵巣過剰刺激症候群を発症あるいは重症化した場合や、子宮内膜が薄く着床が困難な場合などは、採卵した周期には胚移植を行わず、すべての胚を一旦凍結保存します。

凍結融解胚を移植する方法には、自然に排卵した周期に合わせて移植する方法と、ホルモン剤により調節した周期に移植する方法があります。超音波検査や血液検査などで子宮内膜の環境が着床にとって最良の状態に整ったことを確認し、融解後、子宮の中に戻します。

治療法の選択はケースバイケース

体外受精は、一般的には生殖補助医療以外の方法では妊娠の可能性がなく、精子の濃度や運動率が体外受精可能な基準を満たしている場合などに行われます。治療法も複数あり、どの治療法を行うかはケースバイケースですが、一般的には1回の治療(調節卵巣刺激から妊娠判定まで)につきおよそ1カ月かかります。調節卵巣刺激では自己注射により通院回数を減らすことができますが、採卵日や胚移植日はもちろん通院が必要となり、身体的・精神的な負担は少なくありません。

しかし、医学は日々進歩していますので、まずは専門の医師に相談し、最新の情報も含め正しい知識を得ながら、治療方法を検討することをお勧めします。

(文/メディカルトリビューン編集部)